読み物

サブカテゴリー

コンセプトノート

最近の文書(サブカテゴリーを含む)

745. 統治のあり方を決める (2018/9/19)

【意思決定者の育成と継承】

A社は小規模ながら優秀な社員と競争力のある知的資本を有する、業界でも知られる存在です。創業から社をけん引してきた社長が100%の株式を所有し、役員も存在しません。社長はまだ十分にお若いのですが、10年先を見越して事業承継の構想を練りはじめています。

事業承継というと、血縁者にどう継がせるかとか、次期社長候補をどう選抜するかとか、「次の経営者選び」とほぼ同義のように感じられます。しかしそればかりが選択肢ではありません。

ジョン・P. コッター 『企業変革力』(日経BP社、2002年)は「八段階の変革プロセス」がつとに有名な本ですが、その後ろに「変革のもつ意味」と題する部を設けて、「これからの企業像」「リーダーシップと継続的学習」という味わい深い章を配しています。

その中の「上層部のチームワーク」という項で、氏は次のように述べています。

私はそう遠くない将来に、企業トップの後継者選びが、退任する社長のあとを継ぐ、たった一人の人材を選ぶ作業ではなくなるのではないかと考えている。つまり後継者選びは、何人かの人材からなるチームを選ぶプロセスに変わると考えている。

なぜか。加速していると言われている事業環境の変化が、今後も恒常的にかつ高速に起き続けていくとすると、必要な専門知識を補い、決定を下し、組織に伝達していく役割を一個人が負うのは、能力的にも時間的にも不可能になると考えているからです。

この本が書かれたのは22年前の1996年です。氏のイメージしていた「そう遠くない将来」にもう来ているといっていいでしょう。ただし、先の文章には、意思決定チームの選抜や育成方法について具体的な記述があるわけではありません。

【意思決定チームに必要なもの】

仮にA社の社長が、株式を所有したまま新経営チームを組成しようと考えたとします。業務執行を担っていく意思決定チームとは、どんな集団をイメージしたらよいのか。

まず思い出したのは、『熱狂する社員』という本の中で述べられていた「社員のモチベーションの3要素」です。公平感、達成感、連帯感。大規模な調査の結果、『三要素すべてが満たされたとき、社員と会社とのあいだには、他には見られない化学反応が起こる。それが「情熱」なのだ。』と著者らは述べていました。

「公平感」は、職位の高低にかかわらず、組織で仕事をしていくうえで欠かせない衛生要因、つまり感じられないと不満を生む因子でしょう。業務の執行と責任、そしてそれが処遇に反映される仕組みに公平感がなければなりません。何をもって公平 (fair) とするのかは、「公正(フェア)に接する」というノートで以前に考察しました。

「達成感」の源は人によってさまざまでしょうが、先の処遇に加えて、組織や社会に有意義な貢献ができたという満足感も欠かせないと考えます。つまりA社の理念に対する共鳴が必要です。

「連帯感」こそがチームをチームたらしめる感覚でしょう。同じ理念に価値を感じているという仲間意識や、お互いの能力や意欲に対する相互の信頼があって初めて、個人経営でなくこの組織の経営チームの一員であろうと思えるのではないでしょうか。

【統治のあり方が鍵】

ただ、これはあくまでも、よい「執行チーム」の条件です。事業承継を考えるA社の場合は、優れた業務執行チームを作った先に難所がありそうです。

二項対立を三項鼎立にとらえ直してみる」というノートでは、企業の経営を所有と執行、それに統治という機能に分解したリストを紹介しました。

統治とは根本的なルールの制定や運用で、大まかには取締役会が担う機能と考えていいでしょう。小企業では所有と統治は事実上一体化しています。大企業ではいろいろ模索されています。

おそらく世襲を考えていないA社の場合はどうかと考えてみたとき、承継の要所であり難所は、この統治形態の設計にありそうだと思い至りました。社長が唯一の所有者兼統治者でありつづけるのか、共同統治とするのか。共同統治の場合、経営チーム全員が統治者になる、つまり取締役会に参加するのか、代表を出すのか。前者の場合、所有者とのパワーバランスをどう保つか。

【「統治」のあり方を決めておく】

会社では暗黙のうちにカネを出す側(所有者)が統治権を握るケースが多いと思いますが、所有者と執行者が合意をすれば、法の制約の中でも様々な統治のあり方がデザインできるでしょう。

考えてみると、統治のあり方を決めておくというのは、いろいろな援用が可能です。

たとえば、上司は部下に仕事を割り振ります。結果責任を負うのはこっちなんだから言うとおりにしろ、では部下の意欲も下がり、現場で得た知見を生かすこともできず、よい成果は期待できません。ですから仕事に対する統治のあり方を決めておきます。裁量の範囲、進捗報告のタイミング、アラート(緊急報告)を出す条件。成果に対する報奨などもその一部でしょうか。 あるいは、わたしは下宿している子供たちに仕送りをしています。彼らはそれを使って生活をします。カネを出しているのはこっちなんだから使い道は指図させてもらう、では関係性が成り立たないので、大まかにルールを決めて合意を得ます。これも統治のあり方を決めることと言えます。

さらに抽象化すれば、統治とは「決め方を決めること」と言ってよいかもしれません。仮にA社が経営チームを試みるのであれば、所有者である現社長と執行者である経営チームが、会社の重要な問題に対する決め方を決めておく。これはやはり短期間では難しそうな話です。移行の試行、失敗とリカバリーなど、紆余曲折もありそうです。

社長から最初にお話を聞いたときにはずいぶん気が早いと感じましたが、こう考えてみると、さすがの先見性だという思いを新たにしました。


このカテゴリーの文書


新規ユーザー登録(無料)

  • メールニュース[週刊起-動線]の購読
  • コメントなどの投稿
  • ココロミの利用
  • 一部コンテンツの購読

ログイン

コメント

タグ(キーワード)