697. 人が自発的に行動する3つの理由

【自発的、と呼べる動機の3種】

意欲ゼロの状態から、自発的に行動するまでの段階をまとめた理論があります。

米ロチェスター大学のエドワード L. デシ教授とリチャード・ライアン教授は、1970年代からの研究成果をまとめた「自己決定理論」 (Self-determination theory、SDT) の中の小理論である「有機統合理論」において、人がどのように外発的動機づけを調整して自らを行動せしめるかという段階を4つ定義し、非動機づけ-外発的動機づけ-内発的動機づけというより大きな枠組みに組み入れました。

次に紹介するリストでは、3種類の動機づけ状態をそれぞれ[非][外][内]としたうえで、[外]の4つの調整を段階的に並べています。

  • [非]非動機づけ (Amotivation) …… 「やらない」。行動と結果との随伴性を認知しておらず、活動にまったく動機づけられていない状態。
  • [外]外的調整 (External Regulation) …… 「やらされている」。物的報酬の獲得や罰の回避を目的とする動機づけであり、外的要因による統制によって行動が調整される。
  • [外]取り入れ的調整 (Introjected Regulation) …… 「をしなければならない」。部分的に内在化が生じ、明らかな外的統制がなくても行動が開始される。しかし、行動の目的は不安や恥の感情を低減し、自己価値を守ることであり、内面での被統制感から動機づけられる。
  • [外]同一化的調整 (Identified Regulation) …… 「~でありたい」。行動の価値を自己と同一化し、個人的な重要性から自律的に行動する動機づけ
  • [外]統合的調整 (Integrated Regulation) …… 「~をしたい(価値観から)」。ある活動に対する同一化が他の活動に対する価値や欲求と矛盾なく統合され、自己内で葛藤を生じずに活動に取り組む動機づけ
  • [内]内発的動機づけ (Intrinsic Motivation) …… 「~をしたい(興味から)」。活動それ自体を目的として、興味や楽しさなどの感情から自発的に行動する動機づけ

有機的統合理論(自己決定理論の一部) - *ListFreak

こうしてみると、一般的な意味合いで、その行動が「自発的」と呼べるのは、希望の助動詞「たい」で表現される最後の3項目でしょうか。

たとえば、ある仕事を頼まれたとします。「これは自分のキャリアにとって必要だから」「このスキルを伸ばしたいから」と自分を動機づけて取り組めたとすれば、それは同一化的調整。「目的に共感できる」「まさに自分がやりたいことでもあった」と取り組めたなら、それは統合的調整。依頼されなくても「それをやること自体が好きだから」という理由でやってしまうのが、内発的動機づけ。

【自発的に取り組むに足る価値の3種】

先述のリストを貫くのは自律性(自己決定性)でした。リスト項目は他律的(非自己決定的)なものから自律的(自己決定的)なものへと並べられています。

結果的にこれと似た枠組みに到達しているように見えるのが、米メリーランド大学カレッジパーク校のアラン・ウィグフィールド教授らが提唱する「期待-価値理論」 (Expectancy-value theory) です。

先の例と同じように、ある仕事を頼まれたとします。人はその仕事をどのように価値づけるか。彼らの課題価値モデルは「取り組んでみたい課題だと思ってもらうために」というノートで紹介しましたが、順序を変えて再掲します。

  • 【実用的価値(utility value)】 その課題に取り組むことが役に立つ・将来につながるか
  • 【達成価値(attaiment value)】 その課題に取り組むことが望ましい自己像の獲得につながるか
  • 【内発的価値(intrinsic value)】 その課題に取り組むことが楽しいか
  • 【コスト(cost)】 その課題に取り組むコスト(投入エネルギーなどの努力コスト、他の課題を諦める機会コスト、失敗への不安などの心理コスト)はどれほどか

課題の価値を評価する4要素(課題価値モデル) - *ListFreak

こうしてみると、最初の3項目は有機的統合理論の最後の3項目に似ていることがわかります。実際、ウィグフィールド教授は総説の中で、それらの項目の類似(と相違)について論じています。(1)

【役に立つか、大事か、楽しいか?】

そこで、大まかに次のような対応が成立しているとしましょう。

  • 外発的動機づけ → 同一化的調整 = 実用的価値
  • 外発的動機づけ → 統合的調整 = 達成価値
  • 内発的動機づけ = 内発的価値

総説の中で、ウィグフィールド教授は、学術的な用語を一般用語に置き換えてくれています。たとえば達成価値を「重要さ (importance)」とも呼んでいます。外発的動機づけを同一化的調整する、達成価値を認める、それらをひらたく言えば「自分にとって重要だからやりたい」と呼べる、ということです。同様に、実用的価値には「役に立つ (usefulness)」、内発的価値には「興味 (interest)」 という言葉を充てています。

この配慮に感謝して、まとめておきおます。動機づけが内発的なものか外発的なものかに関わらず、人が自発的に行動する理由は次の3つです。

  • 【有用性 (usefulness)】 それをやることが自分の将来にとって役に立つから
  • 【重要さ (importance)】 それをやることが自分らしくあるために重要だから
  • 【興味 (interest)】 それをやること自体が楽しいから

人が自発的に行動する3つの理由 - *ListFreak


(1) Wigfield, Allan, and Jenna Cambria. "Expectancy-value theory: Retrospective and prospective." The decade ahead: Theoretical perspectives on motivation and achievement. Emerald Group Publishing Limited, 2010. 35-70.


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作成: 2017/10/20 by:koji


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