755. 「相手を動かすには相手を知る必要がある」のか

【嫌がられそうな仕事の頼み方】

あなたは部下のAさんに、明らかに嫌がりそうな仕事を依頼しようとしています。どのような準備をすべきでしょうか。

まずはAさんの性格や思考パターンをよく把握し、それに合わせたアプローチを考えるべき。

それが妥当な発想だと思いますが、まったく逆の、それでいて理に適った方法があることを学びました。前回に続いてトーマス・ゴードン博士の『リーダー・エフェクティブネス・トレーニング』に寄りかかってノートを書いています。

【繊細な人心操作】

ゴードン博士は、上述のように相手をよく知ったうえで動かそうとするアプローチを「診断的モデル」と呼んでいます。そしてこのモデルには『グループ・メンバーに行動変容を引き起こす責任を負うのはリーダーであり、リーダーがチームについてより多く知れば知るほど、より巧みに部下の行動変容のための方法を選択することができる』という暗黙の前提がある、と記しています。

たとえば次のような発言は診断モデルに基づいています。

 「私はカレンがどのようなモチベーションで動くのかわかるほど彼女のことを知らないので、彼女に対して何をすればよいかわかりません。」

診断的モデルにはこのように、相手をよく理解できていないという理由でリーダーからの働きかけが鈍くなる問題があります。そしてある程度の理解を持って臨んだとしても、より深い問題を生みがちです。

非常に多くの場合、このモデルは繊細な人心操作を伴います。部下たちについての情報を用いてリーダーが既に決定した解決策へと彼らを導くのです。(太字は引用者による)

「繊細な人心操作」 (subtle kind of manipulation) という表現が響きました。相手をよく知ろうとするのは、自分や組織の結論に相手を導くためであって、それは必ずしも相手自身に深く考えさせるためではない、ということでしょう。

たしかに、リーダーから答えを押し付けないように留意しつつも、結局は組織としての結論 ~たとえば前年比20%という高い目標~ に自ら納得してほしいという思いで会話を運ぶケースが多いと思います。そういった操作的な運びによって、形式的には相手がその結論を言ったとしても、相手からすると「言わされた」感が拭えないものになります。

著者はこう述べています。

リーダーがカレンを変えるために押すべきボタンが何なのかについて考える必要はありません。リーダーがカレンに率直に正直に対決し、カレンが自分自身のボタンを見つけるのを支援することの方がはるかに重要です。

ストレートな発想にハッとさせられました。たしかに、リーダーとしての期待や指示を伝えることと、メンバーが自分で考えを深めていくのを助けること。これは別々のタスクです。それをまぜこぜにして、「こちらが用意した結論に、相手が自ら考えて至る」ように仕向けるよう進めると「繊細な人心操作」になってしまいます。

【相手の思考深化を虚心に支援する】

では、組織の利害と個人の利害が対立する局面において、リーダーはどうふるまうべきか。著者は「診断的モデル」と対比させるかたちで「対決的モデル」と呼ぶ方法を紹介しています。

対決的モデルでは、相手が女性であるとか男性であるとか、年長であるとか若者であるとか、自由主義であるとか保守主義であるとか、エンジニアであるとか営業マンであるとか、そんなことはリーダーには関係ありません。(略)リーダーは自分自身の感情を理解するだけでよく、非難しない方法で相手にその感情を伝える手段を理解していればよいのです。そして、リーダーとグループ・メンバーがお互いに受容できる解決策を見つけることができるようにリスニング・スキルを使うのです。

このやり方のほうが、人心操作のために「人を理解しよう」と試みることよりも、簡単で、確実で、率直で、単刀直入だと、述べられています。ちなみにリスニング・スキルの中核をなすのが、すこし前に紹介した「話のロードブロックを回避する(押し付けない・裁かない・止めない)」ことです。

すこしイメージが湧きづらいかもしれません。最近友人から聞いたエピソードが対決的モデルに少し近いように思うので、紹介します。

自分はセールスなどやりたくなかったのに、営業部に異動になった。新しい上司に掛け合っても「これが会社の指示だ。報酬を貰っている限りは従うべきだ」と取り合ってくれなかった。そうバッサリ斬られては腹を据えるしかなかった。しかし上司はそう言いつつ、自らの顧客を譲るなど、未経験の自分でも成果が出せるよう最善を尽くして環境を整えてくれた。セールスがビジネスの核だと理解した今では、その上司にとても感謝している。そういうエピソードでした。

「報酬を貰っている限りは~」のあたりは、いわゆるYouメッセージで、本書が理想とするスタイルではありません。ただ、この上司が診断的モデルの弊害を回避している様子はイメージできます。

上司には、友人の性格をよく理解したうえで処遇に納得できるよう説得する道もありました。「君の希望が叶うように働きかけるからそれまでは営業をがんばってみないか」といった、友人の希望に寄り添ってみせる道もありました。しかし上司はどちらの道も選ばなかった。

成果が挙がるまでどのような会話が交わされたかはわかりませんが、上司が対決的モデルの体得者であれば、自分の答えを押し付けることなく、自分の価値観で友人の考えを裁いたり止めたりすることもなく、不満や不安を聞きながら問題解決を支援できていたでしょう。一方で、自分自身の思考や感情も伝えていくことで、友人に影響を及ぼしていったのだと思います。


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作成: 2018/12/6 by:koji


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